うちの豆柴は、人間が大好きだ。散歩中にすれ違う人にはしっぽを振り、宅配のお兄さんには全力で飛びつこうとする。
なのに他の犬が近づくと、ピタッと固まる。雷が鳴ればソファの裏に逃げ込む。
先にポイントだけ。犬には生後3〜14週の約11週間だけ「社会化期」と呼ばれる時期があり、この間に触れた刺激には一生慣れやすくなる。逆にこの時期に経験しなかったものは、大人になってから苦手になりやすい。
東京大学の研究チームが柴犬400頭を調べたところ、この傾向が数字ではっきり出ていた。
今回は、その研究データとうちの豆柴の性格を並べてみたら、当てはまる部分とそうでない部分が出てきて面白かった話。
社会化期ってなに?生後3〜14週の「黄金の11週間」
犬の社会化期は、1960年代にアメリカの研究者フリードマンらが発見した。子犬をさまざまな週齢で初めて人間に接触させる実験を行ったところ、生後14週を過ぎてから初めて人間に会った子犬は、恐怖心が強すぎて正常な関係を築けなかった。
この結果から「生後3〜14週」が社会化のゴールデンタイムとされるようになった。約11週間。犬の一生に比べたら、ほんの一瞬だ。
この期間に何が起きているかというと、子犬の脳が「世界は安全か、危険か」を判定するデータを集めている。
人間、他の犬、車の音、雷、掃除機——この11週間に出会ったものは「まあ大丈夫」カテゴリに入る。逆に出会わなかったものは「未知=警戒」カテゴリに分類される。
しかも柴犬はオオカミに遺伝的に近い犬種で、もともと警戒心が強い。洋犬に比べて社会化期が早めに閉じるとも言われていて、のんびりしていると窓が閉まってしまう。
東大が調べた「柴犬の攻撃性」4タイプ
2013年、東京大学の金子らの研究チームが、柴犬400頭の飼い主にアンケート調査を行った。調べたのは、柴犬の行動特性と「4タイプの攻撃性」の関係だ。
4タイプの攻撃性はこちら。
| タイプ | 内容 |
|---|---|
| 飼い主への攻撃性 | 触られたときに噛もうとするなど |
| 子どもへの攻撃性 | 子どもに対して唸る・噛むなど |
| 見知らぬ人への攻撃性 | 初対面の人に対して警戒・威嚇する |
| 他の犬への攻撃性 | 散歩中に他の犬に唸る・吠えるなど |
そして研究チームは、柴犬の行動を4つの因子に分類した。
| 行動因子 | どういうこと? |
|---|---|
| 人への社交性 | 人間に対してフレンドリーかどうか |
| 刺激への反応性 | 音や動きに敏感に反応するかどうか |
| 追いかけ傾向 | 動くものを追いかけたがるかどうか |
| 音への恐怖 | 雷や花火などの大きな音を怖がるかどうか |
結果が面白い。「刺激への反応性」が高い柴犬は、4タイプすべての攻撃性と相関があった。これが唯一、全タイプと関連した因子だった。いろいろな刺激にビクビクしやすい子ほど、攻撃的にもなりやすい傾向がある。
一方、人への社交性が高い柴犬は、子どもや見知らぬ人への攻撃性が低かった。人に対してフレンドリーな気質が、攻撃性を抑える方向に働いているということだ。
うちの豆柴で答え合わせしてみた
ここからが本題。うちの豆柴の性格を、研究データと並べてみる。
| 研究の知見 | うちの豆柴 | 一致? |
|---|---|---|
| 人への社交性が高い→人への攻撃性が低い | 人間は昔から大好き。誰にでもしっぽを振る | ぴったり |
| 子犬期に犬との接触が少なかった | 他の犬には固まっていた。今は唸ることも | ぴったり |
| 刺激反応性が高い→全タイプの攻撃性が高い傾向 | 雷と強風は大の苦手。でも人には全く攻撃的じゃない | 半分だけ |
2つはきれいに当てはまった。でも3つ目が面白い。
うちの豆柴は雷が鳴ればソファの裏に逃げ込むし、強風の日は散歩を全力拒否する。音への敏感さだけ見れば「刺激反応性が高い」側の子だ。研究によれば、そういう子は攻撃性も全体的に高くなりやすい。
でもうちの子は人間には全く攻撃的じゃない。むしろ人が大好きすぎるくらいだ。
おそらく、人への社交性の高さが攻撃性を打ち消しているのだと思う。子犬の頃にたくさんの人間に会っていた——家族、友人、散歩中のご近所さん。そのおかげで「人間=安全」のデータが脳にしっかり入っている。刺激に敏感でも、人に対しては「大丈夫」と判定済みなのだ。
一方で、他の犬にはあまり会わせる機会がなかった。たまに犬とすれ違うと石像のように固まっていた。あの「固まり」が、今の「唸り」に変わっただけなのかもしれない。
柴犬のガウガウは本気の攻撃ではなく「来ないで」のサインであることが多い。社会化期に犬同士の距離感を学べなかった子が、大人になってから自分なりの柴距離を守ろうとしているのだと思うと、ちょっと切ない。
社会化期を過ぎたらもう手遅れ?
ここまで読んで「うちの子、もう成犬なんだけど……」と思った方もいるかもしれない。
ただ、ここで落ち込まなくていい。社会化期を過ぎたら完全にアウトということではない。
大人になってからでも、少しずつ新しい経験を積むことで行動は変わる。ただ、子犬の頃に比べると時間がかかるし、怖がりな子を無理に慣らそうとすると逆効果になることもある。
うちの豆柴も、最初は他の犬に完全フリーズだったけれど、散歩で何度もすれ違ううちに「あ、また会ったな」くらいの反応にはなってきた。
相変わらず自分からグイグイいくタイプではないけれど、それはそれでこの子の個性だ。柴犬はもともと自分のルールを大切にする犬種。無理に社交的にさせる必要はない。
大事なのは、怖がっている子を叱らないこと。「大丈夫だよ」と安全な距離を保ちながら、少しずつ世界を広げてあげること。それが社会化期を過ぎた柴犬との付き合い方だと思う。
まとめ
柴犬の社会化期は生後3〜14週のたった11週間。この短い窓の間にどれだけ多様な経験をしたかが、その後の性格にかなり影響する。東大の研究で400頭の柴犬を調べた結果、刺激への反応性が高い子ほど攻撃的になりやすく、人への社交性が高い子ほど穏やかだった。
うちの豆柴で答え合わせしてみたら、人好き・犬苦手はきれいに一致。音に敏感なのに人には攻撃的じゃないのは、子犬時代にたくさんの人と会った経験が効いているのだと思う。
もし今、子犬を迎えたばかりなら、この11週間を意識してみてほしい。いろんな人、いろんな犬、いろんな音。全部が「大丈夫データ」として子犬の脳にインストールされる。そしてすでに成犬なら、焦らなくていい。柴犬は柴犬のペースで、ちゃんと世界に慣れていく。
参考文献
Kaneko F, Arata S, Takeuchi Y, Mori Y (2013) “Analysis of associations between behavioural traits and four types of aggression in Shiba Inu” The Journal of Veterinary Medical Science, 75(10), 1297-1301.
Freedman DG, King JA, Elliott O (1961) “Critical Period in the Social Development of Dogs” Science, 133, 1016-1017.
Scott JP, Fuller JL (1965) Genetics and the Social Behavior of the Dog. University of Chicago Press.
